サーフィンの陸トレでバランスのトレーニングってやったほうがいいのかな?
今回はこんなお悩みにお答えします。
本記事の信頼性
これまで、様々なスポーツに取り組む、学生から社会人、プロアスリートの指導を行なってきました。バランス能力が必要とされるスポーツのトレーニング指導経験もあります。また、僕自身もサーフィンを趣味としています。
足首の捻挫のリハビリでは必ずと言っていいほど登場するバランス系のエクササイズですが、サーフィンのパフォーマンスの向上にも役立つのか、ということについて考えてみたいと思います。
バランス能力ってそもそもなに?
人間の体には平衡感覚といって体が傾いたことを感知する能力が備わっています。体におけるバランス能力とはその傾きを察知してから正常な姿勢に戻すための能力を指します。
例えば地面の凸凹で意図せず体勢を崩したり、コンタクトスポーツで相手との接触があったり、サーフィンやスケートなど不安定な地面でプレーする必要があったり。そういった状態でも安定した姿勢を取り続けたり、不安定な姿勢から素早く元の姿勢に戻れる能力がバランス能力と言われています。
こうやって聞くと、スポーツ、ことサーフィンに関してはバランス能力はとても重要な能力かと思われます。ではそのバランス能力はどこから生み出されるのでしょうか。
先ほど平衡感覚と書きましたが、これは主に耳の奥の内耳や視覚に頼っている部分が大きいです。また、体の各部位にも筋肉や腱、関節周囲に存在する感覚受容器がそれぞれ位置関係を察知し、今現在自らの体がどのような姿勢にあるかを情報として脳へと伝えています。
つまり、こういった感覚の情報を脳で統合し、体の不安定を安定へと導くためにより効率よく筋肉を動かし関節をあるべき場所に移動させるプロセス全体がバランス能力に結びついているわけです。
サーフィンにバランス能力は必要か
さて、そんなバランス能力ですが、サーフィンには必要な能力でしょうか。
サーフィンは板の上に乗り水の上を走るスポーツです。水はそもそもが流動的な上にサーフィンが行われる海は波もあります。規則的に流れる川などと違い海の波は不規則で予想もつきづらいです。
さらにサーフィンで使用される板は短いもので長さ180cm幅50cmほど、長いものでも長さ3m、幅60cmほどでボートやカヌーと比べてもサイズが小さく安定性も劣ります。流動的な水の上でさらに波もあり、用いる板は小さく浮力も少ないと不安定な条件がこれだけ揃っていればサーフィンにとってバランス能力が必要と言えるのは間違いないと思います。
バランストレーニングってどんなもの?
巷にはバランス能力を向上させるためのトレーニングはたくさんあふれています。もっとも有名なものはバランスボールでしょうか。他にもBOSUディスクやバランスディスク、サーフィンのバランストレーニングに特化していると言われるバランスボードなんてものもあります。
この不安定な道具の上に立ち種々のエクササイズをおこなうことでバランス能力を鍛えようというのが昨今のバランストレーニングです。おおよそ全てのエクササイズがまずは器具の上に立ち静止する。それができるようになったら片足立ちをしたり手をあげたりしてバランスを崩す。
最終的にはこのうえで激しく動いたり、重りを持ったりして難易度上げていきバランス能力を漸進的に向上していくようです。
バランストレーニングでサーフィンが上手くなるのか?
バランスについてなんとなく理解を深められたでしょうか。
そろそろ本題に入りたいと思いますがその前に一つお話しておくことがあります。「エビデンス」という言葉をご存知でしょうか。日本語で「根拠」という意味ですが、実験や調査で得られた信頼に足る科学的な根拠がある事柄について、「エビデンスがある」などと表現されます。
実は先ほど説明したバランストレーニングというものは確かなエビデンスはあまり存在していません。不安定な器具上でエクササイズを一定期間行い、種々のスポーツパフォーマンスが向上するかという問いに対して明確に向上したと結論づけることは今の所できていないのです。
むしろ地上で行うスポーツに関してはバランストレーニング自体を否定する意見も多く挙がっています。バランストレーニングを行うことでその種目のスキルは向上するが、それが競技動作に移行することはないと結論づけている論文もあるのです。
つまり、「あいつバランスボール乗るのめっちゃうまいけどサッカーではしょっちゅう転ぶよね」となる可能性があるということです。水上で行うサーフィンに関してはこの検証をした研究自体もあまりないので今の所バランストレーニングが有効かどうかもわからないといった状態です。
さらに、バランストレーニングを長期的に行うことで力発揮が低下する可能性もあるようです。サーフィンは常に変化する波に合わせて瞬発的に全身の力を発揮して対応していかなければならないのですがその瞬発的な力発揮の速度が低下するという意見もあるのです。
これは致命的な問題で、波に上手に乗るためのバランストレーニングであったはずがサーフィンを下手にしてしまう可能性もあるというわけです。以上の見解をまとめると、
- バランストレーニングそのものがパフォーマンスアップにつながるか微妙。
- バランストレーニングを長期間続けることで瞬発的な力発揮能力が低下する可能性がある
- サーフィンのパフォーマンスアップのためにバランストレーニングを取り入れることは無駄に終わる可能性がある
ということになります。
まとめ
どうやら現在の時点ではサーフィンのパフォーマンスアップにバランストレーニングは向いていないことがわかりました。
そもそもサーフィンはバランスのスポーツですから、バランスを向上させるにはサーフィンの練習をするので十分と言えるかもしれません。そして海に入らない時には別のトレーニングをする方がより効果的と言えそうです。
世の中サーフトレーニングと称してバランストレーニングやコアトレーニングといったものが氾濫していますがちょっと冷静に考えてみる必要はありそうですね。
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